届かなくても、私は此処で。
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舐め合う傷なら、要らない。 途切れる歌なら、聴かない。 尽きた涙なら、掬い上げよう。 その声を、その声を。 夢に見る、雨の夜。 陽射しが壊す、淡い幻。 想い出ならば、手首に刻んだ。 何度でも、何度でも。 前を、向くのなら。 歩き出すのなら。 背を、押そう。 必要ならば、支えよう。 その瞳の、捉えるもの。 その耳の、拾うもの。 その手が求め、触れるもの。 祝福を、そして、祈りを。 通り過ぎる、貴方を。 私を忘れ去る、約束を。 慈しんでは、愛おしむ。 私は想い、希う。 貴方が生きて、いくように。 一瞬で、返ってくる言葉。 全てを、理解して。 短い言葉に、沢山の意味と、余韻を含ませて。 そのひとの言葉は、甘い毒が滴っている。 だから、沢山のひとを、惹き付ける。 そして、その毒を、毒と知るひとは、いない。 冷たく、細い鎖。 繊細な音を立てて、月の光を映し込む。 闇の中、たったひとつの、光の元。 並べ立てた言葉の中から、す、と真意を抜き取って見せる。 非凡な才の為せる業。 それ以上のひとを、私は、知らない。 己を卑下するのでなく、有りの儘。 尚且つ、私の未熟さ、拙さを受け止めて。 そして、その上で、本当の言葉を、くれる。 一瞬で、返ってくる言葉。 全てを、理解して。 これ以上は、望んでは、いけない。 沢山のひとが、望むだろう。 私は其処に、属していない。 祈り、願い、想うだけ。 毒と知りつつ口にした。 ゆっくり死んでいく過程は、月が欠けていくようで。 美しく満ちた月、ただそれだけを、最後に一度、見たかった。 拒絶を、するだろう。 そう、幾ら理解をしていても、手を伸ばそうとしてしまう。 誰も助けてくれない、と。 貴方の言葉が、胸に刺さる。 画面の文字が、泣いている。 それで、救われやしないと、知っている。 それでも、抱き締めたいと、思う。 決して短くはない、間。 幾度も、幾度も、祈り、願った。 それでも私は、虚構の住人でしかないだろう。 月を、見上げた。 私にとっては、現の方が虚構だった。 闇の中に手首を浸した。 貴方の言葉は、とても、リアルだった。 少なくとも、私にとっては。 退廃の夢。 排他の行方。 写真の欠片。 遠くの貴方。 こんなに、大切、なのに。 己の醜悪さに、伸ばした手を下ろす。 ただ、祈り、願う。 貴方に、貴方の望む手が、与えられますように。 貴方の傍に、誰かが。 貴方を認め、愛しますように、と。 現の壁と、残された真。 行き場の無い手が、何を言う。 貴方が、いつか。 微笑んで、いてくれるのならば。 私は、ただ、それだけで。 表面を撫でる、「感じの良さ」。 虚ろな笑顔と、光の無い瞳。 待ち望む、本当の、声。 例えそれが、この身を滅ぼすものであっても。 『 君には、解らない 』 遥か昔の、悲痛な響きが折り重なる。 『 何でもない、普通の僕のことなんて 』 それでも、貴方は、私より遥かに、特別、だった。 時は、過ぎて。 穏やかな顔で微笑む貴方は、今や、私の手を引くことすら出来る。 美しい音色が零れて、悲哀を抱いて優しく撫でる。 本当の声でしか、もう、話せないのだと。 『 憎みすら、したんだ。 それでも君が正しいのだと、何処かで知っていたんだ 』 『 普通の男は、逃げ出すだろう。 くだらないプライドに固執する輩に、傷付いてはいけないよ 』 彼は、人だった。 そして大人の男性になり、人を愛することを知る。 それでも私は、待ち望んだ。 例えそれが、私を殺すものであっても、貴方の声が、聴きたかった。 途切れ途切れの雨音が、記憶を刻む。 淡く、淡く、消えて行ってしまう。 意味の無い場所で、意味の無い行為を重ねている。 それは、現実には価値のあるものの為。 それは、全く以って、私の為にはならない。 それでも、と、立ち止まる。 君を、がっかりさせてやりたくは、ない。 場所の歪み、空気の濁り。 この手に出来るもの、守れるもの、抱けるもの。 何を捨てて、何を選ぶ。 意志を持ち手を伸ばす行為と、その代償。 それも、現実には、私の為になるのだろう。 背を押されたような気がして、歩き出す。 淡く微かな記憶の余韻が、静かな視線と混ざり合う。 雨音の、リズムと旋律。 終わりだけが、くっきりとして近くに在る。 其処で培ったものは、全て、あげよう。 全て、全て、君にあげよう。 それまでに、得られるだけ、得なくては。 君に、強さが在るのは知っている。 けれど、もっと、上へ、前へ進めるように。 私は、ただ、それだけを。 |